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畑正芳(まんのう町)
畑正芳さんによるオリーブ牛肥育

まんのう町は香川県の中でも、有名なうどん屋さんが集中する素晴らしい地域だ。その誘惑を断ち切って進むと、広々とした野原の先に牛舎が見えてきた。若手肉牛農家の畑さんの牛舎だ。

広々とした野原の先にある牛舎

僕らが覗き込むと、最初は後ずさりをするものの、すぐに寄ってきて僕らの手や顔をべろんと舐めようと舌を伸ばしてくる

車を停めてすぐ、道路の脇に肥育後期の牛たちがいる。僕らが覗き込むと、最初は後ずさりをするものの、すぐに寄ってきて僕らの手や顔をべろんと舐めようと舌を伸ばしてくる。西尾さんの牛舎でも感じたが、香川の生産者さん達はずいぶんと牛をかわいがっているようで、識らない人が来ても人を怖がらない。情緒が安定していると、消化もよくなって肉質も向上する。これはもしかすると、香川の県民性に負うところもあるのかもしれない。

そう思っていると、畑さんがやってきた。

「どうも、こんなところまで来ていただきまして、、、」

若い!

というのが第一の感想だ。畑さん、今年35歳。彼とお母さんの二人で、120頭あまりの肉牛と、約20頭の繁殖牛を飼っている。繁殖牛というのは、子牛を産んでくれる母牛のことだ。

畑さん、今年35歳。若い!というのが第一の感想だ
畑さんとお母さんの二人で、120頭あまりの肉牛と、約20頭の繁殖牛を飼っている

通常、肉牛農家には二通りのスタイルがある。繁殖農家というのは母牛を所有し、優良な血統のオスの精液を飼って母牛につけて、子牛を生ませる農家だ。その子牛を半年ほど飼った後、市場に出荷する。その子牛を飼って太らせ、800kg前後の肉牛に育て上げるのが肥育農家という。この繁殖と肥育という二つのスタイルは、それぞれ全く違う労力に経験値が必要になるので、通常はどちらになるかを選択する。しかし畑さんのところは繁殖と肥育を両方おこなう、一貫方式というスタイルだ。

「これだけの牛を二人で一貫して面倒みるのははとても大変なんですけれども、一頭一頭の牛の個性を把握できるので、辞めるわけにはいかないですね。」

牛にも個性があるので、この牛が好む環境はなにか、どのタイミングで餌を食べるのかなどを把握している

という。なるほど、確かにそうだ。市場で購入する子牛を選ぶ際には、親牛の血統と、生まれてからの日数と体重を計算して、一日にどれくらい太るかということをみるのが基本だ。血統によって霜降り度合いや身体の大きさが変わり、一日あたりどの程度太る能力をもっているかが重要だからだ。

でも、ほんとうはそれだけではわからないようなこともある。牛にも個性があるので、この牛が好む環境はなにか、どのタイミングで餌を食べるのかなどを把握しておくことは、牛をストレスなく飼うために大事なことなのだ。一貫方式で生まれるところから付き合うと、牛も飼う人によく馴染むことができるはずだしね。

母牛たちのいる牛舎に足を踏み入れると、「おおおっ!?」と驚いた。というのは、人が歩く通路に小さな子牛がいて、母牛と仲良く語らっているのだ。

人が歩く通路に小さな子牛がいて、母牛と仲良く語らっている

「子牛、逃げちゃいません?」

「いえいえ、母牛から離れることはありませんから、大丈夫なんですよ」

といわれてそうかと思うが、実に自由な空間である。こんな中で、人と牛の信頼関係が築き上げられていくのだろう。

畑牧場では飼料メーカーと相談して持ってきてもらう配合飼料がベースだが、実はもうひとつ、米の稲わらをたっぷり与えている。これがとても重要な鍵となる。

稲わらには栄養価はそれほどないが、その性質上、牛の胃を刺激して食欲を増進してくれる。また、元来は草食動物である牛には、穀物よりも稲わらのほうが体調を整えるのに好ましいたべものである。近年ではアジアからの輸入稲わらを使う人も多いのだが、ここでは地域の米農家から調達したものを中心に与えているということに、僕は感動してしまった。

「牛の糞を堆肥にして、稲わらと交換してもらうんですよ。」

というのだが、それこそ地域循環である。

畑正芳さん

出荷前の牛がいる肥育牛舎に入ると、足下にミャアと寄ってくる猫が居る。

「あっ、この子が、畑牧場の案内人(猫?)でもある有名な、人なつっこい猫なんですよ!」

と県の畜産課の人がわけのわからない声をあげる。この猫ちゃんがほんとうに人なつこいのだが、実はなつこいのは人だけではない。牛舎のえさ場のへりにちょこんと座っていると、何十倍も身体の大きな牛がやってきて、、、口を開けて、、、べろんっ! と猫を舐めているではないか!

「仲良いんですよねぇ、不思議に。」

と笑う畑さん。ああ、この人はやっぱりとても優しい人なんだ。この牧場の牛たちの情緒が安定しているのは、牧場の主たちが安定した心の持ち主だからなんだな、とスッと腑に落ちたのである。

畑牧場の案内人(猫?)でもある有名な、人なつっこい猫
何十倍も身体の大きな牛がやってきて、、、口を開けて、、、べろんっ! と猫を舐めているではないか!
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