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西尾直一(高松市)
西尾直一さんによるオリーブ牛肥育

 高松市内から車で30分ほど、街道から山のほうにキュッと入っていくと、香川らしい丸い小さな山を背にした家と牛舎がみえてきた。香川県内の肉牛生産者の中でもトップクラスといわれる、西尾直一さんのご自宅と牛舎だ。

 自宅のすぐわきには、オーソドックスな鉄筋の牛舎スペースがあり、出荷間近の牛たちがのんびりとしている。もうすでに昼ご飯を目一杯食べた後の牛たちは、若干眠くなっているようだ。

「でもね、ほらオリーブ粕をまくと、お腹がいっぱいでも寄ってくるでしょう」

と、西尾さんが袋からオリーブ粕をてのひらに一杯のせ、飼料のうえにまいていく。すると、ほどなくして牛が一頭、二頭立ち上がり、オリーブ粕を舐めに来た!一緒においてある飼料には目もくれず、褐色のオリーブ粕だけを舐めとっていくのだ。

西尾直一さん
オリーブ粕を、飼料のうえにまいていく
一緒においてある飼料には目もくれず、褐色のオリーブ粕だけを舐めとっていく

「オリーブ粕はね、牛の嗜好性がいいんです。やっぱり牛が美味しいと思うものを食べないと、ストレスも溜まるだろうし、いい肉になりませんからね。」

一頭、ずばぬけて大きく仕上がった牛がいた。30ヶ月を越す肥育期間、今月出荷だということだが、情緒の安定した去勢牛だ。

「ちょっと外に出してみますか。」

と西尾さんが手綱を引いてそろりそろりと牛を引き出す。といっても、出荷前の牛は800キロ近い体重なので、まるで小山が動いているようだ。手綱をふりきることなど朝飯前だろうが、牛は情緒が安定していておとなしい。西尾さんが優しく育てていることがわかる。

出荷前の牛は800キロ近い体重なので、まるで小山が動いているようだ
手綱をふりきることなど朝飯前だろうが、牛は情緒が安定していておとなしい

牛を引きながら牛舎の横を上っていくと、、、なんともレトロな木造牛舎が逆Vの字型に展開して、生育途中の牛たちが僕らをみてモーモーと鳴き始める。なんと圧巻!

なんともレトロな木造牛舎が逆Vの字型に展開している

この木造牛舎は二階建てになっていて、一階部には牛が入り、二階部には稲わらがぎっしりを詰め込まれている。牛を飼いつつ粗飼料を保管することができる造りになっているのだ。これは西尾さんのご両親が手づから建てた牛舎なのだそうだ。

牛を飼いつつ粗飼料を保管することができる造りになっている牛舎
牛舎の二階部には稲わらがぎっしりを詰め込まれている

西尾さん、この素晴らしい牛舎でどんな飼い方をしているのだろうか。

「うーん、やっぱり牛は餌で変わりますからね、、、持ってきましょうか?」

と言うと、やおら一輪車を押して飼料タンクの方へ。餌を満載した一輪車を押して帰ってきたが、その餌は甘くて軽い発酵の香りが漂っている。おもわず一口食べてしまった。小麦のフスマや米ぬかだろうか、穀物の甘さがとても美味しい。

「もしかしてこれ、自家配ですか?」と訪ねると、西尾さんコクリとうなずかれる。自家配とは自家配合飼料という言葉の短縮形だ。通常、農家は餌を構成する穀物などを一つ一つ混ぜて餌にすることをしない。それは飼料メーカーに委託してしまうのだ。一番楽なのは、飼料メーカーが独自に配合を決定した餌。そうしたものはだいたいにおいて無難な配合内容になっているのだが、気になることが一つある。それは、同じ餌を食べさせると、同じ味になりやすいということだ。だから、自分なりの気遣いをもつ農家さんは、餌となる穀物類を集めて、自分で配合する。そういうと簡単そうにきこえるかもしれないが、とてつもなく面倒な作業なのである。

餌を満載した一輪車。その餌は甘くて軽い発酵の香りが漂っている
餌となる穀物類を集めて、自分で配合する

「いやまあ、でも良い味の牛を作るためには必要なんですよ。だから、自分が出荷した牛は毎回、肉を買い戻して、自分で食べて確認してますけどね。」とこともなげにいう西尾さん。

実はこういうことができる人が、肉牛業界にはあまりいない。みな自分がかわいがった牛の肉は食べないという人も多いのだ。

「でも、それをやらないと、育てる時になにをすればいいのか、何を与えたらいけないのかということがよくわかるんです。」

という西尾さん。優しいまなざしの中に溢れる、牛への愛情と研究への熱意。西尾さんのオリーブ牛、お薦めだ。

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